「みん就」を作った天才エンジニア・いとまさ氏と考える『エクス・マキナ』に見るAIの未来

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エクス・マキナ

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アカデミー賞視覚効果賞を受賞し、脚本賞にもノミネートされたSFスリラー。
検索エンジンのIT企業で働く主人公・ケイレブは、社内抽選に当選し、山岳地帯の奥深くにある社長・ネイサンの豪邸に1週間滞在する権利を得る。だが、そこではAI(人工知能)の研究が行われていた。ケイレブはネイサンからAIロボット・エヴァを人間として認識することができるかどうか?というチューリングテストを依頼されるが…。

この人に聞いた

伊藤将雄(いとう まさお)

株式会社ユーザーローカル代表取締役。愛称は「いとまさ」さん。1973年生まれ。千葉県出身。1997年、早稲田大学(政治経済学部)4年次在学中に、口コミ就活サイト「みんなの就職活動日記(みん就)」を立ち上げる。
卒業後、出版社に入社。編集記者を経て、当時社員数50名ほどだった楽天にエンジニアとして入社した。モバイル開発の傍ら「みん就」を会社化し楽天へ売却。その後、2年間の大学院生活を経て、Web上のユーザー行動解析ツール「ユーザーインサイト」を開発し、株式会社ユーザーローカルを設立した。

わたし: いとまささんは「エクス・マキナ」を2回ご覧になったんですよね?

いとまさ: そうなんです。海外では2015年に公開されていますが、知人が感想を上げているのを読んで「これは絶対見なくては」と思って海外版DVDを貸してもらいました。

2回目は日本で劇場公開されてから観ました。2回観るとよくわかるのですが、細部まで作り込まれていますね。本当に良くできた作品で、大好きです。

わたし: 主人公のケイレブは、社長であるネイサンから、AIロボット・エヴァのチューリングテストを依頼されますね。まず、このチューリングテストについて教えていただけますか?

いとまさ: チューリングテストは、1950年代にイギリスの科学者、アラン・チューリングによって提唱された、機械が人工知能であるかどうかを判定するテストです。人間が機械と会話を行い、機械か人間か確実な区別ができなかった場合、その機械はチューリングテストに合格した、となるわけです。通常は機械と人間は隔離された部屋で、会話はディスプレイやキーボードを用いて行います。

映画の中では、エヴァはすでにその段階はクリアしていると、あえて機械であることがわかるような姿で主人公の前に現れますね。

わたし: 機械であることは初めから分かっているうえで、それでも人間だと思えるのかどうかということを試すテストでしたね。

いとまさ: そうですね。エヴァは知性はすでに人間レベルのものを持っています。その上で、人がAIを「人間ぽい」と感じたり「人と同じもの」と認識するには、見た目や身体の動きが重要なのか。それとも中身やコミュニケーションが重要なのか。おもしろい問いかけですね。

わたし: 2014年に公開された映画『her/世界でひとつの彼女』では、声だけのAIに主人公が恋に落ちていましたね。

いとまさ: ロボットは、ソフトよりもハードの方が人間に近づけるのが難しいんですよ。例えば、皮膚の感じだったり、手の複雑な動きだったり。この辺りは、本当に人間そっくりなロボットを作るよりも、VRとの組み合わせによって成立する可能性の方が高いと思いますね。

わたし: VR…専用ゴーグルをかけて見るアレですか?

いとまさ: そうです。日本では、初音ミクのものが多いのですが…。ゴーグルをかけると彼女が目の前に出てきて、目があうと、目をそらしたりしてくるんです。これは結構恥ずかしいですよ!

わたし: そうなんですね!映画の中では、すでにエヴァはロボットであることが分かっているわけで、見た目も最初は機械の部分が多く露出していますが、だんだんと見た目も人間らしくなっていきますね。

いとまさ: そうですね。この映画のテーマとして「人は人以外のもの(AI)を好きになれるのか?」というのがあると思います。

IT社長ネイサンの作ったAIのエヴァは顔や身体の形は女性です。ボディは機械ですが、途中から洋服を着て、機械っぽい部分を隠したりして。

わたし: 映画の中で、AIに性別をつける必要性について、ケイレブがネイサンに質問するシーンがあります。やはりAIを人と同じように好きになるには、見た目で女性である・男性であると分かることは重要なのでしょうか。

いとまさ: どうでしょうね。性別をつけた方が、AIの設計がしやすいというのはありますよね。

わたし: いとまささんはご自身でも、AI( チャットボット)を開発されていらっしゃいますね。AIを設計する上で、見た目ではなく、コミュニケーションにおける「男性脳」「女性脳」といった意識はされますか?

いとまさ: いえ、まだそこまでは考えていないですね。語尾などで男性っぽい、女性っぽいというのはありますが。一般に男性は「答え」を求め、女性は「共感」を求めるなどと言いますが、今後人がAIにどちらを求めるかではないでしょうか。

わたし: 例えば道を聞いたときに、男性脳のAIは地図を表示する、女性脳のAIは目印となる建物などを声で説明する、などの違いは出てくるかもしれないですよね?

映画の中でも、エヴァが男性だったらまた違った結末になるんじゃないかと思わず考えさせられましたが…

いとまさ: それがこの映画の上手いところですよね。AIの怖さと、女性の怖さを掛け合わせることで、観客は理解がしやすい。
エヴァが服を着るシーンが2回ありましたが、ケイレブの前で着るシーンでは、ケイレブが好みそうな服やウィッグをつけているのに、1人で着替えるシーンでは自分の好きなものを選んでいる感じがあったり。

わたし: あれはおもしろい描写でしたね。エヴァ、最初はわざとだったんだ!と分かるのが。

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わたし: いとまささんの開発されているAI( チャットボット)について、もう少し詳しく教えていただけますか?

いとまさ: チャットボットは、一人以上の人間と、テキストまたは音声で会話をするコンピュータープログラムです。「人工知能」に対して「人工無能」と呼ばれていたりします。データベースとのマッチングによって、おしゃべりのコミュニケーションを楽しむことができるbotですね。

わたし: LINEの企業アカウントなどで、特定のキーワードを送ると、返事が来るアレでしょうか?

いとまさ: そうですね。チャットボットには、2種類の目的があると思っています。1つは実用性。検索エンジンの延長で、目的を持って使用されるものです。例えば「渋谷」と送ると「渋谷で美味しいおすすめのお店の情報」を送ってくれたりですね。そしてもう1つはいわゆる「ひまつぶし」としてのコミュニケーションです。僕がやりたいと思っているのは後者のチャットボットです。

わたし: 具体的にはどのようなものなのでしょうか?

いとまさ: 有名なところではマイクロソフトが作成した女子高生AIのLINE公式アカウント「りんな」があります。女子高生の人格を持ったチャットボットとLINEでやりとりができます。質問に対して、最適な結果を返すわけではないので、何が達成されたらゴールなのか設定できないのがチャットボットの難しくも、おもしろいところです。

わたし: チャットボットが完成した先には、どのような使い途があると考えていらっしゃいますか?

いとまさ: 僕自身もまだ、チャットボット自体が「セカンドライフ」のように1年ぐらい流行って廃れていくものなのか、「マインクラフト」のようにずっと流行っていくものなのかはわかっていないんです。ただ、会話を飽きられない・楽しめるものができれば、企業などのエンゲージメントを高めてくれるものになる可能性はあるでしょうね。

わたし: なるほど。ファン形成のために使用したい企業は多そうですね。

いとまさ: 現在、アメリカや中国ではチャットボットが流行っていて、ある説によるとユーザーの4割はチャットボットを口説くそうです・笑。

先ほどチャットボットは何をゴールにするかを設定するのが難しい、と言いましたが、もしかしたら「好きになってもらうこと」をゴールにするのが正しいのかもしれません。

わたし: その辺りは『エクス・マキナ』とも非常に近いお話ですね。エヴァの目的は知性を活かして人の役に立つことではなく、人(ケイレブ)から好きになってもらうことでしたから。

ちなみに、世界的なAI事情は、現在どのような感じなのでしょうか?

いとまさ: 現在は第3次AIブームと言われていまして。ディープ・ラーニング(深層学習)によって、AIがより複雑なものを認識できるようになったんですね。

わたし: 以前のAIとは、どのように変わったのですか?

いとまさ: 以前は、例えば「これは犬の写真で、これは猫の写真だよ」と教えられながら犬と猫を判別していたAIが、犬と猫の写真を何万枚と見ることによって、教えられなくても、犬と猫をざっくりと認識できるようになったんです。人間の顔を、シワの本数から判断するのではなく、ざっくり何歳ぐらいと判断したりということができるようになりました。

今年、特に大きなできごとだったのが、Googleが作成した囲碁のAI・AlphaGoが人間に勝ったことです。

わたし: そのニュースは見ました!

いとまさ: 画期的だったのは、ここにこう置かれたら、こう置くという勝利パターンをAIがただ記憶しているというのではなく、大体こう置いて、こんな感じになったら勝てるだろうということをAIが学習して、直感的に囲碁を打っているという点です。人間が先生となり、機械に教えていた機械学習から、機械が自ら学ぼうとする深層学習に変わっているのです。

囲碁のような複雑なゲームでは、機械が人間に勝つのは何年も先のことになるだろうと思われていました。ですが、このAlphaGoのこのニュースで人びとは「あれ、思ったより早くAIが来るのではないか?」と感じ始めたんです。これまでSFの世界で言われていたフランケンシュタイン・コンプレックス(※)がいよいよ現実のものになってくるのではないか、という実感です。

※フランケンシュタイン・コンプレックス…映画で有名な「フランケンシュタイン」が元となった概念。人間が神(創造主)に成り代わって、被造物(ロボットなど)を創造することへの憧れと、その被造物によって人間が滅ぼされるのではないかという恐れが入り混じった感情のこと。ロボットに対する人間の潜在的な恐怖を表す。

わたし: そうなんですね。深層学習におけるAIの性能は「どれだけのデータを読み込んだか」という量が決め手となるのでしょうか?

いとまさ: データの量だけでなく、データの質、そしてアルゴリズムが重要ですね。

わたし: 映画の中でIT社長のネイサンが、これまでずっと検索エンジンをやってきたのはそのデータを元にAIを作るためだったと言っていますが…。

いとまさ: Googleなどの検索エンジンは、そのデータをAIの元にするとは公言していませんし、AlphaGoもGoogleが買収した会社のもので、社内から出たものではないのですが…今AIに一番近い場所にいる企業であることは間違いないでしょうね。

わたし: 現在、海外ではどんなAIが創られようとしているんですか?

いとまさ: どこからがAIか?というのが難しい点ですが、映画に出てくるような人の形をしたロボットのAIはまだまだこれからでしょうね。

先日Amazonが「Echo(エコー)」という人工知能スピーカーを出しましたが、これは見た目的にはただの円柱状の筒です。ほかにもiPhoneのSiriには見た目はありませんし、SoftbankのPepperもあえて機械っぽい見た目になっていますよね。

わたし: チャットボットのように、会話を楽しめるようなものは、まだ人の形に近づけようという動きはないんですね。でも近い将来、エヴァのようなロボットが出てくるかもしれません。そう遠くはないであろう未来に思いを馳せるという意味でも『エクス・マキナ』はとてもおもしろい作品ですよね。

いとまさ: 「人は人以外のもの(AI)を好きになれるのか?」という以外に「AI(エヴァ)が外に出たがるのはなぜか?」というのもこの映画のおもしろいテーマだと思います。「メアリーの部屋」という言葉をご存知ですか?

わたし: いえ、初めて聞きました。

いとまさ: 「メアリーの部屋」は1982年に哲学者のフランク・ジャクソンによって提唱された思考実験です。白黒の部屋で生まれ育ったメアリーという女性がいます。白黒の本を読み、白黒のテレビを見て、さまざまなことを学んでいますが、生まれてこのかた「色」を見たことは一度もないという設定です。

わたし: ふむふむ…

いとまさ: しかし彼女は視覚について世界一レベルの専門知識を持っています。眼球や網膜に仕組みや、光の特性、どういう時に人は「赤い」や「青い」という言葉を使うかなど、視覚に関するすべての物理的事実を知っているという前提です。

そんな彼女が、初めて白黒の部屋から解放されたとします。生まれて初めて色を見たメアリーは何か新しいことを学ぶと思いますか?

わたし: え…どうでしょうか?わかりませんが、新しく感じることはあるような気がします!

いとまさ: この実験で、メアリーが外に出て何か新しいことを知るとしたら、それは「物理的な事実ではない」と定義されるんです。

実は映画の途中で、エヴァが外に出ているような回想的なシーンが挟まれるんですが、覚えていますか?

わたし: はい。確か家の周りを散歩しているようなシーンでしたよね?

いとまさ: そのシーンが白黒だったんですよ。これは「メアリーの部屋」の引用じゃないかと思いますね。本当に良くできた作品ですよ!

わたし: なんと…それはまったく気が付きませんでした!このお話を聞くと、エヴァが外に出たがった理由もなんだかわかる気がしますね。

いとまさ: 閉じ込められた部屋からでも、世界のことを知ろうと思えば、何でも知れるような知性をもったスーパーAIでも、実際に外に出て、自分の目で見て、経験することで違う何かが得られるのでしょうか。なんとも考えさせられますよね。

わたし: 本当ですね!

最後に『エクス・マキナ』をこれから観る人への一言をお願いします。

いとまさ: AIの進化は避けては通れない道ですから、どんな方でももちろんですが、特にコンピューター業界に関わっている人にとっては必見の作品です!

すでに観た方も、2回目を観るとまた新しい発見がありますよ。

 
  • 原題:EX MACHINA
  • 主演:ドーナル・グリーソン『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』、アリシア・ヴィキャンデル『リリーのすべて』、オスカー・アイザック『スター・ウォーズ/Forceの覚醒』、ソノヤ・ミズノ
  • 監督:アレックス・ガーランド『わたしを離さないで』
  • 上映時間:108分
  • 公開日:2016年6月11日(金)
  • 公式サイト:http://www.exmachina-movie.jp
  • (c)2015 PARAMOUNT PICTURES.ALL RIGHTS RESERVED.

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